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信じられない人々

信じられない人々

世の中には、ものごとを信じられない人がいる。

“信じられない”ということは“疑ってかかる”ということでありそれは、人として、あまり良い反応ではないと思う。なにかにつけて「マジ!?」「うっそ!?」と叫ぶ女子がいるが、ただでさえ態度がデカいくせに、ことさら大きな声で叫び倒すのは甚だ遺憾だ。

まあ、だからって何でも信じきってしまえば良いかというとそうでもなくて、安易に信じちゃったが為に身ぐるみ剥がされたり、風呂場で赤の他人の体を弄ったり、マグロ漁船に乗せられたり、とそれこそ信じられないような憂き目に遭ったりもするご時世なので一概には言えない。

要するに、信じる信じないは個人の裁量によるものだと思うのだがそうはいっても程度ってものがあるはずで、結局のところ僕が言いたいのは「信じられないくらい、信じられない人々」に遭遇した、ということだ。


休日のある日、少し奮発して家族で高級な中華料理店に出掛けた。

メニューは、値の張るコースランチとアラカルトが少しあるだけで客の大半はコースを選択しているようだった。僕らもコースを注文し、ひと息ついていたとき、声が聞こえてきた。


「これ、美味しいわあ」

「ほんとに。それに、色が綺麗ねえ」

「うーん、綺麗よねえ」


隣を見ると三人のマダムが卓を囲んでスープをすすっている。薄緑色のスープ。メニューには『本日のスープ:海の幸とほうれん草のスープ』と書かれていた。

ほどなく、僕らの卓にも運ばれてきたスープは確かに美味かった。息子もおかわりしたがったし老若男女に優しい味といえるだろう。 僕らが食べているあいだも隣席はスープの話題で持ちきりだった。


「どうしたら、こんな色になるのかしらね?」

「なんの色かしら?」


メニューを見ていた僕は「ほうれん草」の緑だと確信していたが、ひとりのマダムが近くにいた給仕係を捕えて上品な口調で尋ねた。


「この緑色は、なんの色なのかしら?」

「ほうれん草でございます」


給仕係は、さらりと説明すると会釈をして去っていった。いたって当然の応対である。メニューにもしっかり書いてあるし。

だが、マダム達は前のめりに顔を寄せ合って、こう抜かしたのだ。





「ほうれん草、じゃないわよねえ」

「ほうれん草じゃあ、こんな色は出ないわよ」

「そうよねえ、違うわよねえ」





僕は、もう一度、静かにメニューを開いた。

『本日のスープ:海の幸とほうれん草のスープ』

確かに、そう書かれてあった。

マダムはスープの名前に気づいていないのかもしれない。料理名を見ればきっとマダム達も納得してくれるだろう。僕はメニューに書かれた事実を知らせたいと思った。


メニューを、わざとらしく落としてみた。


いささか不自然な態度だったが、それがきっかけとなったようで、マダム達は各自でメニューを確認しはじめた。

やれやれ。

村上春樹調になりながら、僕は彼女達の反応に期待した。遠視用のメガネ越しに薄目でメニューを読むマダム達。


「あら見て、奥さん。本日のスープはね、ええと・・・。
 海の幸とほうれん草のスープ、ですって」

「まあ、ほんと、海の幸とほうれん草のスープ・・・」


二人が呟くと、一瞬の沈黙があった後、残ったマダムが言った。










「どうりで、海老がいっぱい」















そっちですか。










思わず意表を突かれたのもつかの間、別のマダムが言った。















「でも、やっぱり・・・

 ほうれん草の色じゃないわよねえ」










そして、さらなるマダムの衝撃の告白が瀕死の僕を襲った。




















「それより、これ・・・


 ほんとに海老かしら?」















貴女方は、どこまで信じないおつもりなのか。

じゃあ、この薄緑色の液体はいったいなんだ。

店員の証言もメニューの記述も全く信じようとしない。いっこうに徹底抗戦の姿勢を崩そうとしない彼女達はこれまでの人生、果して何を信じて、どう生きてきたというのだろう。


彼女達には、どんな確実な報告も、明快な連絡も、真剣な相談も、きっと信じてはもらえないだろう。


そんな僕の想いをよそに、マダム達はスープをすすり続けていた。「信じる者は救われる」というが“信じられないスープ”もまた、スプーンですくわれ、信じられない人の口元へ運ばれるのだった。



(了)


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