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アメとムチ

アメとムチ

その日、会社を出たのは27時。深夜の3時だった。

じとっと生温い雨が降っていた。

会社から横浜の自宅まで、高速道路に乗って車で約30分。

すぐにでも帰りたかった。はやく眠りたかった。

会社の前でタクシーを止め、雨を避けるように乗り込んだ。


「芝浦から高速に乗って、横浜駅西口で降りてください」


そう告げると、運転手は言った。


「お疲れでしょう。高速降りた頃にお声をかけますよ」


それまで寝ててください、の隠語である。


親切な人だった。


しかも彼は高速に乗る前に、降りた後の道順を聞いてきた。


「横浜駅の西口で高速を降りればいいんですね?

 降りた後は右ですか?左ですか?」



深夜3時。客はちょっとでも長い間、車中で眠りたいはず。


そんな気配りゆえの情報収集だろう。

もちろん、僕もそれに甘えたかった。

確かに、少しでも長く眠りたかった。


「右に曲がってください」


そう言いながら、目を閉じようとすると、親切な運転手は、
なおも高速を降りた後の道を僕に聞いた。


「なるほど、わかりました。その後はどうします?

 右ですか左ですか?」



ちょっと困惑しながら、僕は答える。


「ええと、それも右ですね」


「わかりました。高速降りたら、右、右、ですね」



と言った瞬間、















高速の乗り口を通り過ぎた。















おい。










慌てて指摘すると、彼は「いけね」と舌を出して苦笑した。

「話してるうちに、通り過ぎちゃいましたね」

すぐ乗り直してもらったが、僕はまずいと思い始めていた。


この運転手は、どうやら親切すぎるのだ。


それは彼の車両にもしっかり表れていた。

助手席の背もたれの部分がくり抜かれるようになっていて、
後部座席に座る客が足を伸ばせる仕様になっていた。

ビンゴカードみたいな、あのくり抜く感じ。

驚きつつも、勧められるがままに靴を脱いで足を伸ばすと、
なるほど確かに心地良い。

あっという間に睡魔が襲ってきた。

目を閉じてうとうとしながら、

「これ、すごくいいですね」

つい、話を振ってしまった。


「へへへ。そうなんですよ。これね・・・」


1振ったら、100返してくれる人だった。


助手席をぶち抜いてまでして万全の睡眠体勢にさせといて、
いっこうに眠らせてもらえない。

なんのために、僕は両足を伸ばしてるんだろう。

なぜ、この体勢で彼の話相手をしてるんだろう。





なんなんだ、このアメとムチは。





スーパーリラックス&車内快眠時間の延長を保障しながら、
運転手のほぼ独演会気味のトークが炸裂しとるのである。

さらに言うと、彼は何も知らない人だった。

彼の接客トーク術は「客への質問」が基本スタイルらしく、
政治、芸能、スポーツ、社会、といろいろと聞いてきたが、
これが驚くほどに何も知らなかったのである。


「小泉さんの次は、管さんあたりになるんですかねえ?」

「最近ジーコ見ないですけど何かあったんですかねえ?」

「うちの娘がファンでねえ、ほらカツーンの…亀田君?」



こんな調子で高速道路の道のりを満喫FARWAYである。

せっかくのリラクゼーションシステムが全くの無駄だった。

彼が悪気がなくて本当に親切なぶん、むしろ余計に疲れた。


結局、彼の話は延々と自宅に到着するまで続いた。

やっとベッドでゆっくり眠れると思いながらカードを渡し、
クレジット処理を待った。

待った。

待った。

ん?

待ちきれなくて前を覗き込むと、彼が苦笑しながら言った。





「すいません、私、ちょっと機械に弱くてねえ…

 カード処理のやり方、お客さん、解ります?」
















解りません















その運転手は、つくづく無知なのだった。

外に出ると、雨はすっかり上がっていた。



(了)


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