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立ち読み

立ち読み

本屋で立ち読みをしていたのだった。

文庫本の新刊が平積みされているコーナー。

結構な人数が集まっていて、誰もが目当ての本を探していた。

僕も、少し前から気になっていた本を手にとり吟味していた。


そこへ、いささか場違いな印象のコワモテの男がやってきた。

男は本には目もくれず、僕の隣にいた女に野太い声をかける。


「わりぃ、待たせたな」

「えっ、あ、いや、別に」


どうやら二人は待ち合わせで、女が時間を潰していたようだ。

男と不釣合いなくらい地味目の女だったが、恋仲なのだろう、
親しそうな雰囲気だった。


「なに、読んでたんだよ?」

「えーと、あ、ちょっと、なんとなく」


女は、知られたくなかったのか、聞かれて明らかに動揺した。

男は、女の手元を覗き込んで、タイトルを確認するやいなや。


「おまえ、それ、ありえねえだろ」


と嘲笑しながら、周りに聞こえるくらいの大声で突っ込んだ。

僕も含めて周りの人間が皆、一斉にチラっと女の本を見ると。










『官能小説用語表現辞典』










たしかに「そりゃねえだろ」的なタイトルではあるけれども。


「いいじゃーん、けっこう面白いよ、これ」


女は、かなり慌てながらも、必死に言い訳なんかしたりして。

すると、男は女から本を荒っぽく奪い、ぱらぱらとめくって。


「こんな本、立ち読みしてんなよ」

「なんでよー、いいじゃんよー」


女は言葉と裏腹に、本を奪い返して元の場所へ素早く戻した。

それでも、男はちょっと粘着質らしく。


「だって、おまえ、官能小説用語だよ?辞典だよ?」

「もー、しつこいなー」


このときにはもう、女は顔から火が出るほどに真っ赤だった。

僕は、横にいてだんだんいたたまれない気持ちになってきた。


「よく人前でこんなん読めるな。官能て」

「・・・もう、いいから」


女は、すっかりうつむき加減になり、反論の声も聞こえない。

それでも男はお構いなしで、冷やかすように責め立て続ける。


「なに、お前。もしかして、欲求不満?」

「・・・やめてよ」


あまりにしつこく絡むもんだから、どんどん腹が立ってきた。


「こんなん堂々と読む奴の気が知れねえな、おれは」

「・・・」


男の酷い言動に、僕はどうにもこうにも我慢ならなくなって。


「なに読んだって本人の勝手だろ!」


そうビシッと言い放ってやろうと、口を開きかけたそのとき。


わりとダンディな感じの初老の男性が、ふらっとやってきて、
二人の間に「ちょっと、ごめんよ」と言いながら割り込むと、
おもむろに、一冊の本を手に取ったのだった。





そう。










『官能小説用語表現辞典』を。










男と女はもちろん、その場が一瞬固まって、変な間ができた。

我に返った女が「ほらあ」と勝ち誇った顔になって男を見た。

男はバツが悪くなったみたいで、女の手を強引に引っ張ると、
その場をそそくさと立ち去ってしまった。


二人が去った後で、そのダンディな男性を見ると目が合った。

彼は、僕に向かって優しい微笑みを浮かべて、目配せをした。

僕は、なんだか照れて、礼を言う代わりに少し首をすくめた。

そして、手にしていた本を購入するために、レジへ向かった。





そう。










『官能小説用語表現辞典』を。



(了)


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