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すべての出来事は日常である

すべての出来事は日常である

通勤途中、駅を出てすぐの交差点で信号を待っていた。
同じく行先を阻まれた人々が、交差点の四隅に群がる。
信号が青に変わって、人波が四方から一斉に動きだす。
そんないつもと変わらぬ光景の中、ある異変が起きた。

人波を掻き分け、前方から何者かが突進してきたのだ。

必死の形相をした中年の女が、真正面から迫ってくる。
事態を全く把握できないままに、僕は思わず身構えた。
すると女は僕の真横をすり抜け、駅前の交番へ入った。

朝っぱらから、血相を変えて交番に駆け込んでいく女。

それは、なんだか物騒な事件の前触れのように思えた。
清々しい朝には似つかわしくない、不穏な空気が漂う。
数名の通行人とともに、僕は足を止めて様子を伺った。

女は息も整えず、入口付近にいた警察官にすがりつく。
一枚の紙切れを広げて指差しながら何やら訴えている。
僕は再び赤になった信号を待つふりをして話を聞いた。

「す、す、すいませんっ!こ、ここに、ここに・・・」

おそらく紙切れは地図だろう、道に迷っているらしい。
なんだ、と思ったが尋常でない慌てぶりが気になった。
応対した警察官は、女と対照的に冷静そのものだった。

「ええと、なに?ここ?おたく、ここに行きたいの?」

女は顔から変な汁が出んばかりの勢いで首を縦に振る。

「そ、そ、そうですっ!私、い、い、急いでまして!」

女は腕時計に目をやり、せわしなく返答を待っている。
警察官は構わず、じっと紙切れを眺めたまま動かない。
沈黙が耐えられないのか、女はひとりで喋りはじめた。

「いま、交差点を右に行ってみたら見つからなくて…
 見間違えたかもと思って一度戻ってきたんですが…
 でもこれを見る限り、確かにここを右のはずなん…」

それまでの経緯を説明する女を、警察官が手で制した。
女の動作が一時停止ボタンを押されたように固まった。
警察官は紙切れをゆっくり元通りに畳むと女に渡した。
緊張の面持ちで大きく息を呑み、返答を待ち侘びる女。
半ば呆れ、しかしはっきりした口調で警察官は告げた。










「この地図、随分古いね。あそこは昨年潰れましたよ」










「えっ!?」










ぐしゃ。










初めて生で“絶句してその場に崩れ落ちる人”を見た。










一部始終を見守っていた人々は皆、再び歩きはじめた。
何事も無かったかのように、いつもと変わらぬように。
そこには毎日繰り返される東京の風景が広がっていた。
いつもと同じ平日の朝の時間が、緩やかに過ぎていた。
その場に崩れる人間の姿ですら日常のひとコマだった。

このとき僕は改めて当たり前の事実を思い知らされた。


『誰かの運命の一日は他の誰かの平凡な一日である』


また、この事実は逆に考えると、こう言い換えられる。


『何気ない日常の中には常に非日常が存在している』


いったい彼女はなぜ、急いでそこへ向かっていたのか。
すでに存在しない場所で、彼女は何をしたかったのか。

答えなど出るはずもないのに、僕はまだ見続けていた。
あっという間に誰にも注目されなくなった彼女の姿を。
警察官に抱え起こされ、力なく頭を下げる彼女の姿を。
交番を立ち去り、放心状態のまま歩き出す彼女の姿を。
彼女の姿が雑踏に溶け込むまで、ただずっと見ていた。

彼女の存在を、僕は最後まで見届けなければならない。

自分でもよく解らないが、それが使命だと感じたのだ。



っぽい感じで遅刻の言い訳をしたら、すげー怒られた。



(了)


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