Home > スポンサー広告 > 夏のオフィス

スポンサーサイト

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


シンプルにしながら参加中。記事を読んでいただいた上にこのボタンを押してもらえたなら二重のヨロコビです。ありがとう。


Home > スポンサー広告 > 夏のオフィス

Home > Essay > 夏のオフィス

夏のオフィス

夏のオフィス

オフィスの空調が壊れてしまった。

この時期に冷房機能がクラッシュすることは、
デスクワークがメインの僕にとって死活問題だ。
案の定、瞬く間に室内温度と不快指数は上昇し、
狭いフロアには蒸し暑さとイライラが充満した。

ほどなくして、ビル管理会社の人がやって来た。
作業着姿の初老の男性は、故障原因を説明し、
修理に一週間要する旨を申し訳なさそうに伝えた。
僕らは彼に言っても仕方ないことを承知しつつ、
一週間も冷房が使えないのを愚痴るほかなかった。
と。
ふいに、管理会社の男性がバケツを差し出した。
板氷を無造作に突っ込んだ、小ぶりなポリバケツ。

「今週は、これで辛抱していただけませんかね」

突然の差し入れの意味が解らずに戸惑っていると、
彼は恐縮しながら言葉を足した。

「窓を開けていただいて、これを置けばですね、
 若干は涼しく感じるのでは、と思いましてね」

言われるがままに窓を開けてバケツを置くと、
彼は軽く頷いて、静かに呟いた。

「ああ、風流ですなあ」

申し訳なさそうな顔を一瞬だけ、ほころばせると、
彼は、できることは全てやり遂げたとばかりに
深々とお辞儀をして、去って行ったのだった。

残った僕らは、呆然としたままバケツを眺めていた。
どうにかなるわけでもないのに、ただずっと見ていた。
ふと、ある者が「焼け石に水だよな」と言った。
また、ある者は「逆に目障りよねえ」と言った。
そして三々五々、諦め顔で仕事に戻りだしたそのとき。

ゴトン、と音がした。
バケツの中で板氷が溶けて崩れる音だった。

その音を聞いて、ようやく僕は「そうか」と思った。
この板氷入りバケツは、先人の立派な知恵だったのだ。
文明の利器を使わずとも、氷の溶ける音やその様で、
充分に清涼感を味わうことは、できるのである。

また、いまにして思えば、あの板氷入りバケツは、
先ほどの男性が独断で用意したものに違いなかった。
まさか、管理会社にそんなマニュアルがあるはずもない。
個人として、できる限りの誠意を見せてくれたのだろう。
それに気づいた途端、彼の厚意がとても有難く、
清々しい気持ちになっていたのだった。

「仰るとおり、風流ですなあ」

溶ける氷を見つめながら、僕らは考えを改めていた。
一昔前までは、冷房機器なんて存在すらしなかった。
先達は、工夫を凝らして暑さを凌いできたのだ。
それに比べて、僕らは恵まれた環境に慣れすぎ、
小さなアクシデントにも対応できず苛立っていた。
あの彼のように、ほんの少し目先を変えれば、
体感温度など簡単に下げられるのに。
自分達がちっぽけに感じ、僕らは思わず苦笑した。

「これって究極のクールビズだよな」
「地球温暖化防止に貢献してるよね」
「もっと氷買ってきて置いちゃうか」
「いっそ、窓に風鈴でも吊るそうぜ」

氷を見るうちに、頭を冷やされた気分になったのか、
社内には奇妙な団結心が生まれはじめていた。
場の空気を察した僕は、納涼グッズ買出し係に名乗り出て、
皆の笑顔に見送られながら、颯爽とオフィスを後にした。

そして、近所の冷房全開カフェで思いっきり涼んだ。



(了)
スポンサーサイト


シンプルにしながら参加中。記事を読んでいただいた上にこのボタンを押してもらえたなら二重のヨロコビです。ありがとう。


Home > Essay > 夏のオフィス

Search
Feeds
Others
あわせて読みたいブログパーツ

Page Top

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。