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老婆は小刻みにビートを刻む 2

老婆は小刻みにビートを刻む 2

(前回のあらすじ)

初めて入った中華料理屋に、老婆が居た、という話。

※詳しくはコチラ

+++

僕らは、テーブル席が2つと厨房を囲むカウンターだけの、
狭い店の入口を入ってすぐのテーブルに促された。

席の背後には棚があって雑誌や漫画が無造作に積まれ、
棚の上の天井ぎりぎりのところには、テレビが置かれていた。

そのひどく不安定な設置状況は、まさにちょうどいま
僕らが置かれている状況に似ているように思えたが、
画面に映し出されるNHK番組の牧歌的な雰囲気に、
どこか誤魔化されてしまった。

それでも敏感に異変を察したのか、息子がグズり始めたので、
僕は、雑誌の山の一番上にあった児童誌を手に取った。

その瞬間、思わず「あっ」と声を出しそうになってしまった。

『とっとこハム太郎』が表紙を飾っている、その児童誌は、






埃を被っていた。






『2004年3月号』だった…。


児童誌を戻して指先の埃を払うと、ただ苦笑いするしかなかった。

心配そうな家族を前にして、最悪の事態を想定しはじめたが、
僕は、それを振り払うかのように、ある仮設を立てることにした。


『あの老婆は、“大女将”


この店は代々、独自の“秘伝の味”が受け継がれていて、
彼女は、先代の大将の奥様=大女将さん、なのだ。
要するに、長い歴史を誇る、名店中の名店なのである。

そう考えれば、期待しない訳にはいかなくなってくるではないか。
店内は廃れているが、それもまた、隠れた名店に相応しい。
目の前の老婆、つまり今の大将の母上は知る人ぞ知る存在で、
ご自身の食事で、たまたま店に顔を出していただけなのだろう。

ある意味、肝の据わった大女将のお姿から想像する限り、
現在の大将は中華鍋を豪快に操る一流料理人に違いない。

人当たりの良さそうな、中華の鉄人・陳建一か。
それとも、ダークな雰囲気の、周富徳・富輝兄弟か。

そんなイメージを膨らませていた矢先、厨房から人影が現れた。
“秘伝の味”を受継ぐ者の雄姿に期待を抱き、視線を向けた。










天然パーマにグリグリ眼鏡の、

初老のおばちゃんだった。











失礼ながら、どう贔屓目に見ても、

皿洗いのパートさん。

しかし、そんな彼女の口から、再びの言葉が繰り返されたのである。








「・・・まあ! いらっしゃい」







「まあ!」って。

脳裏にあったイメージが、音を立てて崩れていった。

目の前に絶望の二文字がちらつきはじめた僕らのテーブルに、
お構いなしの様子で老婆、否、大女将が、水を持って来た。

ゆっくりゆっくり、三人分の水を運ぶ、その立ち振る舞いは、
まるで能でも観ているかのようだったが、小刻みに震えていた。

皺がれた手に包まれたグラスが、カタカタと音を立てていた。
中の水はギリギリ零れない程度に、しかし確実に波立っていた。

その水はまるで、動揺を隠せない僕の心を表現しているようだった。


(また、つづく)
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